CSRDとCSDDD、名前は似ているが役割は違う——開示義務とデューデリジェンス義務を整理する
CSRDは情報開示、CSDDDはサプライチェーン上のデューデリジェンス実行を求める、目的の異なるEU指令です。2026年のオムニバス簡素化で対象範囲・適用時期が縮小・延期された現在の制度状況をもとに、両者の違いを整理します。
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CSRD(企業サステナビリティ報告指令)とCSDDD(企業サステナビリティ・デューデリジェンス指令)は、名称が似ているため混同されやすいですが、企業に求める行動が異なります。前者は「報告すること」、後者は「サプライチェーン上のリスクに対応すること」を求めます。2026年のオムニバス簡素化で対象範囲・適用時期が変わった現在の制度状況をもとに、両者の違いを整理します。
CSRDとは何か——開示を求める指令
CSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive、企業サステナビリティ報告指令)は、企業に自社のサステナビリティ情報の開示を義務付けるEU指令です。2022年に採択され、環境・社会・ガバナンス(ESG)に関するリスクや実績を、ESRS(欧州サステナビリティ報告基準)という詳細な基準に沿って報告することを求めます。
対象範囲は2026年のオムニバス簡素化で見直されており、現在はEU企業・非EU上場企業について従業員1,000人超かつ純売上高4.5億ユーロ超という基準が設定されています(適用は2027年1月1日以後に開始する事業年度から、2028年に報告)。非EU企業の親会社を持つEU子会社については、グループ売上高4.5億ユーロ超(2会計年度連続)かつ当該EU子会社の売上高2億ユーロ超という別の基準が、2028年1月1日以後に開始する事業年度から適用されます。
CSDDDとは何か——デューデリジェンスを求める指令
CSDDD(Corporate Sustainability Due Diligence Directive、企業サステナビリティ・デューデリジェンス指令)は、企業に自社およびサプライチェーン全体における人権・環境への負の影響を特定・防止・是正する体制の構築と実行を義務付けるEU指令です。2024年に採択されました。
対象範囲も2026年のオムニバス簡素化で見直され、現在はEU企業について従業員5,000人超かつグローバル売上高15億ユーロ超、非EU企業についてはEU域内売上高15億ユーロ超という基準になっています。適用開始は2029年7月26日で、デューデリジェンス状況の年次開示義務は2030年1月1日以後に開始する事業年度からです。
決定的な違い
CSRDとCSDDDの決定的な違いは、求められる行動の種類です。CSRDは「報告書を書くこと」——自社の状況を測定し、決まった基準に沿って開示する義務です。CSDDDは「サプライチェーン上のリスクに実際に対応すること」——原料の調達先や取引先で人権侵害や環境破壊が起きていないかを調査し、問題があれば防止・改善する義務です。
前者は情報開示義務、後者は事業運営そのものへの義務という点で、要求される実務の種類がまったく異なります。「サステナビリティに関するEU指令」という括りで同じように扱うと、対応すべき内容を見誤ります。
2026年のオムニバス簡素化で何が変わったか
CSRD・CSDDDはいずれも、2026年2月に採択され同年3月18日に発効した「オムニバスI指令」(Directive (EU) 2026/470)により、対象範囲と適用時期が当初の計画から見直されました。CSRDは対象企業の基準が引き上げられ開示項目も削減され、CSDDDは対象企業の基準が引き上げられた上に適用開始が延期されました。
ここで注意が必要なのは、対象範囲が縮小・延期されたことと、制度そのものがなくなったことは別だという点です。オムニバス簡素化は、対象企業数を絞り込み事務負担を軽減する措置であり、CSRD・CSDDDという制度自体、そしてEUがサステナビリティ情報開示・デューデリジェンスを重視する方針そのものは維持されています。「規制が縮小されたから重要性が下がった」と単純に理解するのは正確ではありません。
実務上どちらを気にすべきか
自社が上記の基準(CSRD:従業員1,000人超かつ売上高4.5億ユーロ超、CSDDD:従業員5,000人超かつ売上高15億ユーロ超、いずれも非EU企業は別基準)に直接該当するかを、まず確認する必要があります。基準の引き上げにより、直接の対象企業数は当初想定より大きく絞られています。
ただし、直接の対象でなくても対応が不要というわけではありません。対象企業の取引先・サプライヤーである場合、CSRDの開示やCSDDDのデューデリジェンスに必要な情報を、対象企業から求められる可能性があります。これは法的な直接義務ではなく、取引関係を通じた間接的な要求という性質の違いがあります。直接の法的義務と、取引先からの要求という間接的な圧力は、分けて確認する必要があります。
バイオエコノミーとの接点
CSDDDのデューデリジェンス対象には、原料の生産地における労働環境や生態系への影響(生物多様性の損失など)が含まれ得るため、バイオマス・農産物のサプライチェーンにも関わり得ます。ただし、これは特定の商品(パーム油・牛肉・大豆・木材等)を対象に森林破壊への非関与を個別に証明させるEUDRとは異なり、CSDDDは対象企業の事業・サプライチェーン全体を対象にする、より広く一般的な仕組みです。両者が重なる場面はありますが、対象の絞り方が異なる別の制度として理解する必要があります。
まとめ
CSRDは情報開示、CSDDDはデューデリジェンスの実行という、異なる行動を企業に求める指令です。2026年のオムニバス簡素化で対象範囲は当初想定より絞られ、適用時期も延期されましたが、制度自体がなくなったわけではありません。自社が直接の対象基準に該当するかを確認したうえで、対象でなくても取引先から間接的に情報提供を求められる可能性がある点にも注意が必要です。
参照資料
- European Commission.「Corporate sustainability due diligence」. commission.europa.eu
- European Commission.「Corporate Sustainability Reporting Directive」. finance.ec.europa.eu
- EUR-Lex.「Directive (EU) 2026/470 of the European Parliament and of the Council of 24 February 2026」CELEX:32026L0470. eur-lex.europa.eu