地域資源事業、着手前に確認すべきこと
地域資源事業は、資源量だけでは判断できません。原料・収集・設備・契約・採算・地域価値・再現条件という7つの観点から、着手前に確認すべき論点を整理します。
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「この地域には資源がある」「技術的に使える」「補助金も付きそうだ」——ここまで揃うと、事業化の検討は前進したように見えます。しかし実際には、原料を継続して集め、一定の品質で処理し、買い手と契約を結び、費用と価値が誰に帰属するかまで確認して初めて、事業として成立するかどうかが見えてきます。この記事を読むと、着手前の検討や社内説明で使える具体的な確認観点が分かります。個別の案件の可否を判定するものではありません。
まず確認すべき全体像
未利用資源が使われないままなのは、多くの場合、技術や意欲の欠如ではなく、収集・品質・季節性・コストという構造的な制約があるためです(詳しくは「未利用資源」はなぜ使われていないのかを参照してください)。また、こうした制約を乗り越えて資源が実際に事業化されたとしても、その事業から生まれる価値が地域資源のあった地域に残るとは限りません(詳しくは地域資源を使うことと、地域に価値が残ることは別問題だを参照してください)。
この記事は、その先にある問いを扱います。実際に地域資源を使った事業を検討する際、何を確認すればよいのでしょうか。確認すべき論点は、大きく6つのグループに分けられます。
- 原料条件:何が、どれだけ、どんな状態で手に入るか
- オペレーション条件:収集・物流・前処理・設備の稼働
- 需要・契約条件:誰が買い、どんな条件で契約するか
- 経済条件:採算はどう成り立つか、公的支援にどこまで依存するか
- 地域価値:価値は誰に帰属するか
- 再現条件:この事業は他地域でも成り立つか
以下、順に見ていきます。
原料条件——発生量と使える量は違う
最初に確認すべきは、原料の発生量そのものではなく、実際に集められる量です。林地残材のように、発生量に対して実際に搬出できる量が1割程度にとどまる資源もあります。「地域にはこれだけの資源量がある」という数字を見た際は、それが発生量なのか、実際に回収可能な量なのかを区別する必要があります。
あわせて確認すべき点として、季節性(年間を通じて安定して発生するか)、品質のばらつき(水分・異物混入・規格の不揃い)、そして所有権・調達権(誰がその資源を処分する権利を持つか)があります。総務省行政評価局が2021年に公表した木質バイオマス発電に関する実態調査では、燃料材について、製材用途など他の需要との競合や価格上昇によって、集荷に苦慮する発電施設があることが指摘されています。同じ資源でも、既存の用途を持つ買い手がいる場合、想定していた価格や量で調達できるとは限りません。
収集・物流・前処理——工場へ届くまでのコスト
資源そのものの価格だけでなく、それを使える状態で施設まで届けるコストを見る必要があります。日本木質バイオマスエネルギー協会によると、大規模な木質バイオマス発電所では燃料の集荷範囲が数十キロメートル圏に及ぶことがあり、燃料調達の観点からは、集荷範囲を狭めてコンパクトに運営できる小規模発電への期待も指摘されています。回収半径が広がるほど、燃料費・人員・保管コストは増え、採算に影響します。
前処理(乾燥・粉砕・選別)や保管中の劣化、集荷の頻度と必要な人員も、原料価格には現れないコストです。「原料は無償・安価で手に入る」という前提だけで採算を見積もると、これらの工程コストを見落とすことになります。
設備・稼働——処理できることと、稼働し続けられること
技術的に処理できることと、実際に安定して稼働し続けられることは別の問題です。確認すべき点には、設備の処理能力、実際の稼働率、採算が取れる最低稼働量、原料の規格が設備の仕様に適合しているか、保守体制、そして技術やプラントを提供する事業者への依存度が含まれます。
総務省の同調査では、調査対象となった発電事業者の全てが木材チップを燃料として利用しており、木質バイオマス利用量全体のうち木材チップが83.3%を占めていました。多くの設備が特定の燃料形態(この場合はチップ)を前提に設計されているということは、原料が想定と異なる形状・品質で供給された場合、追加の前処理や設備改修が必要になる可能性があることを意味します。「この資源は技術的に利用できる」という説明だけでは、既存設備でそのまま安定処理できるかどうかは分かりません。
需要・買い手・契約——作れることと、売れることは別
製品やエネルギーを作れることは、それが売れることを意味しません。確認すべき点には、買い手が具体的に誰か、供給量と価格をあらかじめ定めるオフテイク契約の有無と期間、品質条件、代替品の存在、市場規模、需要の変動などがあります。
契約の有無は特に重要です。長期の買取契約がない状態で設備投資を行うと、稼働後に想定した価格・量で売れないリスクを事業側がすべて負うことになります。逆に、契約条件(価格・数量・品質基準)が厳しすぎる場合、原料側の供給が不安定な事業ではその条件を満たし続けられないこともあります。
採算・公的支援——制度があることと、市場で自立することは別
採算を見る際は、原料調達・物流・人件費・エネルギー・設備の維持費(OPEX)と、初期投資(CAPEX)を分けて確認します。そのうえで、固定価格買取制度(FIT)などの公的支援や補助金がどの程度収支を支えているかを確認してください。
輸入燃料に依存する木質バイオマス発電の例では、燃料費として海外へ支払われる金額が発電コストの相当部分を占めることが指摘されています(詳しくは地域資源を使うことと、地域に価値が残ることは別問題だを参照)。公的支援によって事業が黒字化していても、その支援が終了・縮小した場合に単独で採算が取れるかどうかは、別に確認する必要がある論点です。「制度の対象になっている」ことと、「市場で自立している」ことを同じ意味で扱わないことが重要です。
地域価値——実務で確認する形に変換する
地域資源を使うことと地域に価値が残ることが別問題である理由は、既に整理した通りです。ここでは、その考え方を実務で確認できる形に落とし込みます。
- 原料代は地域内の売り手に支払われているか、地域外・海外からの調達に相当部分を頼っているか
- 運転・保守にともなう雇用は地域で発生しているか
- 設備の所有者・運営主体は地域の企業・自治体か、地域外の事業者か
- 事業から生まれる利益はどこに帰属するか
- 補助金・税制優遇などの公費負担は誰が担っているか
- 運転・保守を通じて蓄積される技術・ノウハウは地域に残るか
これらは、地域資源活用を否定するための項目ではなく、どの条件が満たされれば地域に価値が残りやすいかを確認するための視点です。
再現条件——他地域の成功例は、そのまま移せない
ある地域で成立した地域資源事業を見て、「自分たちの地域でも同じことができるはずだ」と考えるのは早計です。成立の条件は、地域ごとに異なります。
確認すべき違いには、原料の密度(同じ面積あたりの発生量)、回収半径、道路や電力といったインフラの整備状況、収集・運転を担う人材の確保しやすさ、買い手の有無、地域の政策・補助制度、土地の利用条件、既存の商流(誰がどこに何を売っているか)が含まれます。
人材については、地域差が特に大きい論点です。林野庁によると、林業従事者の高齢化率(65歳以上の割合)は令和2年時点で25%と、全産業平均の15%を上回っています。一方で「緑の雇用」事業による新規就業者は年間平均で約3,200人に増えており、担い手の状況は地域や取り組みによって差があります。ある地域で原料の収集・運搬を担う人材が確保できたとしても、別の地域で同じ体制を再現できるとは限りません。
実務用の確認表
以下は、初期検討や会議で使える確認表です。○×で優劣を判定するものではなく、未確認の項目が何を意味するかを併記しています。
| 観点 | 確認すること | 未確認なら何が分からないか |
|---|---|---|
| 原料 | 発生量ではなく実回収可能量、季節変動、品質ばらつき | 事業として成り立つ供給量が分からない |
| 収集・物流 | 回収半径、前処理・保管コスト、必要な人員 | 原料価格に現れないコストが見えない |
| 設備・稼働 | 原料規格との適合、最低稼働量、実稼働率 | 技術的に処理できても安定操業できるか分からない |
| 需要・契約 | 買い手の有無、オフテイク契約の期間・価格・品質条件 | 作った製品・電力が売れる保証があるか分からない |
| 採算 | CAPEX・OPEX、公的支援の依存度、支援終了後の採算 | 制度に依存した黒字か、市場で自立できるかが分からない |
| 地域価値 | 原料代・雇用・利益・技術の帰属先 | 地域が経済的に得ているものが何かが分からない |
| 再現条件 | 原料密度・人材・買い手・政策の地域差 | 他地域の成功例がこの地域でも通用するか分からない |
まとめ
地域資源事業は、「地域に資源がある」「技術的に使える」「補助金が付く」という3つの条件だけでは判断できません。原料の実回収可能量、収集・前処理のコスト、設備の安定稼働、買い手との契約、公的支援を除いた採算、地域への価値の帰属、そして他地域から見た再現条件まで確認して初めて、事業としての成立可能性が見えてきます。
この記事は、どの案件を進めるべきかを判定するものではありません。確認すべき論点を洗い出し、未確認の項目が何を意味するかを把握したうえで、個別の判断は関係者が行う必要があります。木質バイオマス発電という具体的なケースをさらに詳しく確認したい場合は、木質バイオマスの持続可能性を確認するポイント(対象は発電原料に限定)もあわせて参照してください。
参照資料
- 総務省行政評価局, 木質バイオマス発電をめぐる木材の需給状況に関する実態調査(2021年)
- 一般社団法人日本木質バイオマスエネルギー協会, 小規模木質バイオマス発電
- 林野庁, 林業労働力の動向