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考察

「契約を結んだ」は、なぜ融資の根拠にならないことがあるのか

「大手企業と供給契約を結んだ」という発表は、実現性の強い材料に見えます。しかし契約には強さの段階があり、貸し手が融資の根拠にできるのは、その一部です。契約の「有無」ではなく「強さ」を読む視点を、水素の分析とSAF工場の例で整理します。

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契約書と銀行の建物の間に距離があるイメージ

「大手企業と供給契約を結んだ」。バイオ燃料や素材の新工場の発表で、よく見かける文言です。しかし、契約があることと、その契約を根拠に銀行がお金を貸すことは、同じではありません。この記事では、契約には強さの段階があること、貸し手が見る条件、そして契約や提携があっても事業が進まない別の理由を、水素の分析とSAF工場の例で整理します。なお、「契約があったのに資金が付かなかった」個別の案件を示す記事ではありません。

オフテイク契約は、なぜ資金調達の中心にあるのか

オフテイク契約とは、工場でつくられる製品を、買い手があらかじめ決めた条件で買い取る契約です。新しい工場の建設費は、多くの場合、銀行などから借りて調達します。貸し手は、その工場が稼働したあとの売上から返済を受けるため、「作ったものが、決まった条件で売れる」という約束を、最も重視する材料の一つにします。

法律事務所Bracewellの解説(電力プロジェクトについての記事)は、融資を受けられる契約の基本的な要件として、次の点を挙げています。融資期間を通じて安定的で予測可能な収入をもたらすこと、信用力のある買い手であること、事業の主な運営リスクと市場リスクを和らげること、事業が債務不履行に陥ったときに貸し手が権利を行使できなくなる条項を含まないことです。同解説は、オフテイク契約を、こうした資金調達で「最も重要な書類」になりうるものと位置づけています。電力の話ですが、本記事は、燃料や素材のプロジェクトにも通じる一般的な考え方として読みます(本記事の整理です)。

「契約がある」には段階がある

「契約」という言葉には、強さの違う段階が含まれます。調査会社Wood Mackenzieの水素に関する分析(2024年10月)は、買い手と売り手の合意が、条件をまとめた覚書(ターム・シート)、意向書、基本合意書(MoU)、そして法的拘束力のある売買契約(SPA)へと進む、と整理しています。このうち、法的に拘束力があるのは売買契約で、前の3つは原則として拘束力がありません。

同じ分析は、低炭素水素の発表済みの生産能力のうち、契約が結ばれているのは約6%(8.3 Mtpa、発表済みの能力は135 Mtpa。Mtpaは年間100万トン)にとどまり、契約済みの数量のうち、確定した売買契約まで進んだのは約4分の1だと述べています。国際エネルギー機関(IEA)の報告書(2025年)も、水素で確定した購入契約の大半は、すでに使われている精製・化学の分野と、船舶向けの水素系燃料に集中しており、2024年に新しく結ばれた購入契約は1.7 Mtpaと、2023年の2.4 Mtpaより減ったと述べています。

ここから読み取れるのは、「契約を結んだ」という発表の中には、拘束力の弱い段階にとどまるものが、相当に含まれうる、ということです(融資の根拠になるかどうかは、別の問題です)。ただし、個々の案件の契約の強さは、通常は公開されません。数字は水素の例で、バイオ燃料や素材に当てはまる割合は、この記事では確認できていません。

貸し手が見る条件

契約の「強さ」を決める条件は、一般に次のようなものです。これは一般的な金融実務に基づく本記事の整理で、特定の資料の引用ではありません。個別の契約の内容は、通常は公開されていません。

  • 期間: 契約期間が、借入の返済期間をカバーしているか
  • 数量: 買う数量が確定しているか、買い手の都合で変えられるか
  • 価格: 価格が固定か、下限があるか、市況に連動するか
  • 支払いの義務: 引き取れなくても代金を払う義務がある契約(テイク・オア・ペイ)か、引き取った分だけ払う契約(テイク・アンド・ペイ)か
  • 買い手の信用力: 買い手自身が、長期間、支払い続けられるか
  • 解除と例外: 工場の性能が未達のとき、どのような条件で契約が解除できるか
  • 貸し手の権利: 事業が行き詰まったとき、貸し手が契約の権利を引き継げるか(Bracewellの指摘と重なります)

これらが弱ければ、「大手企業と契約した」という発表があっても、貸し手は、その契約を将来の確実な収入として評価しにくくなります。

契約や提携があっても、事業が進まないもう一つの理由

もう一つ、契約とは別のリスクがあります。工場が、計画どおりに動くかどうかです。

米国のFulcrum BioEnergyの例を、報道(Waste Dive、2024年9月10日)で見てみます。同社の子会社は、ネバダ州で、ごみを合成原油に変えて、SAF(持続可能な航空燃料)の原料にする工場を運営していました。報道によると、原料となるごみはWM(ウェイスト・マネジメント)が供給し、精製はMarathon Petroleumが担う予定でした。工場は2022年に稼働を始めましたが、2024年5月に操業を止め、同年9月9日、米国の連邦破産法第11条を申請しました。報道は、工場を計画どおりに動かすことに苦労していたと伝えています。

原料の供給や精製の提携があっても、工場が動かなければ、事業は成り立ちません。貸し手が、契約とは別に、技術のスケールアップ、建設、操業のリスクを確認するのは、このためです。報道だけでは、同社の販売契約の内容までは確認できません。ここで言えるのは、「提携や契約があること」と「工場が動くこと」は別の問題、という点までです。

発表を読むときの確認項目

「オフテイク契約を締結した」という発表を読むときは、次の順に確認します。

  1. 契約の種類: 覚書や基本合意なのか、法的拘束力のある売買契約なのか
  2. 条件の公開: 期間、数量、価格の決め方、支払いの義務が示されているか
  3. 買い手: 買い手が誰で、支払い能力があるか
  4. 資金: その契約を根拠に、融資や出資が実際に決まったか(最終投資決定、融資の実行)
  5. 工場: 建設が進み、計画どおりに稼働する見通しがあるか

条件が公開されないまま「大手企業との契約」という事実だけが強調されている場合、その契約が資金調達を前進させる力を持つかどうかは、現時点では判断できません。判断できないと書くことが、誠実な読み方です。

関連する見方は、次の記事でも扱っています。

まとめ

オフテイク契約は、新しい工場の資金調達で重要な役割を果たしますが、契約があることと、その契約が融資の根拠になることは、同じではありません。契約には、覚書から拘束力のある売買契約まで強さの段階があり、水素の分析では、契約済みの数量のうち、確定した売買契約へ進んだのは約4分の1とされています。さらに、契約や提携があっても、工場が計画どおりに動くかは、別のリスクです。

発表を読むときは、契約の「有無」ではなく、契約の種類、条件の公開、買い手、実際の資金の決定、工場の稼働見通しを確認します。確認できない部分は、判断できないものとして扱います。

参照資料

  • Bracewell LLP(法律事務所)による、電力プロジェクトのオフテイク契約の解説(2026年9月10日付。融資を受けられる契約の要件の確認に使用). bracewell.com
  • Wood Mackenzie「Hydrogen offtake contracts: securing project outcomes」(調査会社による分析。2024年10月4日付、水素を対象。契約の段階と契約済み数量の確認に使用). woodmac.com
  • 国際エネルギー機関(IEA)「Global Hydrogen Review 2025」要約(国際機関の報告書。2025年、水素を対象。確定した購入契約の分野と新規契約量の確認に使用). iea.org
  • Waste Dive(業界報道)によるFulcrum BioEnergyの破産申請の記事(2024年9月10日付。工場の稼働開始・停止と破産申請の確認に使用。同社の販売契約の内容は確認できていません). wastedive.com

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