バイオエコノミーとGXは何が違うのか——重なる領域と異なる目的を整理する
『バイオエコノミー=GXの一部』という理解は正確ではありません。政府自身の位置づけ、重なる領域、重ならない領域、そしてBXという第三の言葉から、両者の関係を整理します。
バイオエコノミーの最新の動きは Xでも追っています →
「GX推進室」を持つ企業で、バイオ由来素材やバイオマス発電の話題が出ると、「それはGXの話なのか、別の話なのか」という疑問が生まれることがあります。結論から言うと、バイオエコノミーはGXに完全に含まれるわけではなく、GXもバイオエコノミーを網羅しているわけではありません。この記事では、政府自身の位置づけ、重なる領域と重ならない領域、そして両者の関係を分かりにくくしているもう一つの言葉「BX」を整理します。
GXとは何か
GX(グリーントランスフォーメーション)は、化石エネルギー中心の産業・社会構造を、CO2排出の少ないクリーンエネルギー中心の構造へ転換し、脱炭素と経済成長を同時に実現することを目的とした、日本政府の長期戦略です。
法的な裏付けとしては、2023年5月に成立した「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律」(GX推進法)と、2022年12月の「GX実現に向けた基本方針」があります。対象分野は、省エネルギーの徹底に加えて、水素・アンモニア、次世代再生可能エネルギー、原子力発電、CCS(CO2回収・貯留)といった、エネルギー供給側の転換が中心です。2025年2月には、2040年を見据えた「GX2040ビジョン」も公表されています。
このビジョンの中で、バイオ由来製品の社会実装やバイオマス発電も、脱炭素経済構造への移行を支える要素の一つとして位置づけられています。つまり、バイオ関連の取り組みはGXの対象に含まれることがありますが、GXそのものの中心はエネルギー供給構造の転換です。
バイオエコノミーとは何か(おさらい)
バイオエコノミーは、動植物・微生物などの生物資源や生物の働きを利用して、食料・素材・化学品・エネルギーなどの価値を生み出す経済活動と、それを支える産業・市場・政策の総体です。対象は食・農業・林業・水産業から、発酵・バイオものづくり、バイオベース素材、バイオ燃料まで幅広く含まれます。詳しい定義はバイオエコノミーとは何かで整理しています。
ここで重要なのは、バイオエコノミーの中心的な問いが「生物資源・生物機能を経済活動にどう利用するか」であり、脱炭素そのものが目的ではないという点です。食料安全保障、地域経済への価値還元、未利用資源の活用など、CO2排出量とは直接結びつかない論点も、バイオエコノミーの重要な一部です。
政府自身は両者をどう位置づけているか
この関係を考える上で参考になるのが、政府自身の位置づけです。内閣府が2024年6月に決定した「バイオエコノミー戦略」は、バイオエコノミーを次のように説明しています。
バイオエコノミーは、グリーントランスフォーメーション(GX)や循環経済(サーキュラーエコノミー)、ネイチャー・ポジティブ(生物多様性・自然保護)に貢献する循環型の経済社会である。
この表現が示しているのは、「バイオエコノミー=GXの一部」という包含関係ではなく、バイオエコノミーがGX・循環経済・ネイチャーポジティブという3つの異なる政策目標に、それぞれ別の形で貢献するという位置づけです。GXに完全に含まれる概念であれば、わざわざ3つを並べて「貢献する」という言い方をする必要はありません。
重なる領域と重ならない領域
政府文書・GX2040ビジョンの記述を踏まえると、両者の関係は次のように整理できます。
GXのみ
- 水素・アンモニア
- 次世代再生可能エネルギー(太陽光・洋上風力等)
- 原子力発電
- CCS(CO2回収・貯留)
- 省エネルギー・電化
重なる領域
- バイオマス発電
- バイオ由来素材の社会実装
- バイオものづくり(精密発酵等)
- 持続可能な航空燃料(SAF)等のバイオ燃料
バイオエコノミーのみ
- 食料安全保障・食品ロス削減
- 農業・林業・水産業の価値創出
- 地域の未利用資源の経済的活用
- 脱炭素と直接結びつかない生物資源利用
GX2040ビジョン・バイオエコノミー戦略2024の記述に基づく整理。境界は今後の政策動向で変わりうる。
重なる領域(中央)は、バイオマス発電やバイオ由来素材、SAF(持続可能な航空燃料)のように、「生物資源を使う」ことと「化石資源への依存を減らす」ことが同時に成り立つ取り組みです。一方、GXのみの領域は、水素や原子力のように生物資源と関係のない脱炭素技術であり、バイオエコノミーのみの領域は、食料安全保障や地域資源の活用のように、脱炭素とは別の目的(食料安全保障、地域経済、資源の有効活用)を持つ取り組みです。
混同を生むもう一つの言葉——BX
GXとバイオエコノミーの関係をさらに分かりにくくしているのが、「BX(バイオトランスフォーメーション)」という第三の言葉です。
経団連(日本経済団体連合会)は2023年、DX(デジタルトランスフォーメーション)・GX(グリーントランスフォーメーション)に続く概念として「BX」を提唱しました。2024年4月には、政府の次期バイオ戦略(同年6月策定)に向けて「バイオトランスフォーメーション(BX)実現のための重要施策」という提言も公表しています。
BXは、GXやDXと同じように「あらゆる産業・人々の生活の在り方を変える」概念として位置づけられていますが、対象はバイオテクノロジー・バイオエコノミー領域に特化しています。つまり、日本の産業界では、
- DX:デジタル技術による産業・社会の変革
- GX:脱炭素・エネルギー転換による産業・社会の変革
- BX:バイオテクノロジー・バイオエコノミーによる産業・社会の変革
という、3つの「X」が並列に語られる場面があります。GXとバイオエコノミーが混同されやすいのは、この3つ目の言葉(BX)がまだ広く定着しておらず、バイオ関連の取り組みが便宜的にGXの文脈で語られることが多いためだとも考えられます。
日本企業にとっての実務的な意味
自社の取り組みが「GX施策」なのか「バイオエコノミー(またはBX)の取り組み」なのかを判断する際は、次の観点を確認すると整理しやすくなります。
- 主な目的は何か:CO2排出量の削減が主目的であれば、GXの文脈で評価される可能性が高くなります。食料安全保障や地域資源の活用が主目的であれば、GXの評価軸だけでは測れない価値があります
- どの支援制度を前提にしているか:GX推進法・GX基本方針に基づく支援(水素・CCS等向け)と、バイオエコノミー戦略に基づく支援(バイオものづくり等向け)は、対象範囲も申請窓口も異なります
- 社内でどの部署が担当すべきか:GX推進部門とバイオ・研究開発部門のどちらが主管すべきかは、上記の目的・制度の違いを踏まえて判断する必要があります
「GXの一環」と説明した方が社内外に伝わりやすいという理由だけで、バイオエコノミー固有の価値(食料安全保障、地域経済、生物多様性への配慮等)を脱炭素の文脈に矮小化しないことが、実務上重要です。自社の事業がバイオエコノミーからどのような影響を受けうるかをより広く確認したい場合は、バイオエコノミーは自社に何を意味するのかを参照してください。
まとめ
バイオエコノミーとGXは、バイオマス発電やバイオ由来素材のように重なる領域を持ちますが、GXの中心は脱炭素・エネルギー転換であり、バイオエコノミーの中心は生物資源・生物機能の経済活用です。政府自身も、バイオエコノミーをGXに「貢献する」概念として位置づけており、単純な包含関係としては説明していません。経団連が提唱する「BX」という第三の言葉の存在も踏まえ、自社の取り組みがどちらの目的・制度を前提にしているかを個別に確認することが、混同を避ける出発点になります。
参照資料
- 内閣府 統合イノベーション戦略推進会議.「バイオエコノミー戦略」(令和6年6月3日決定). cao.go.jp
- 経済産業省・内閣官房GX実行推進室.「GX実現に向けた基本方針」(令和4年12月). enecho.meti.go.jp
- 経済産業省.「GX2040ビジョン」(令和7年2月). meti.go.jp
- 日本経済団体連合会(経団連).「バイオトランスフォーメーション(BX)実現のための重要施策」(2024年4月16日). keidanren.or.jp
- 日本経済新聞.「DX、GXの次は「BX」 経団連が提言するバイオ戦略とは」. nikkei.com