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考察

バイオエコノミーは自社に何を意味するのか——事業への影響を確認する5つの視点

『バイオエコノミー市場が拡大する』ことと『自社に関係がある』ことは別問題です。原料・製造プロセス・製品・顧客要求・コスト構造という5つの視点から、自社が受ける変化を確認するためのフレームを整理します。

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事業の各段階で受ける変化を確認するイメージ

「バイオエコノミー市場は2030年に100兆円規模」と聞いても、それが自社にとって参入すべき機会なのか、静観してよい話なのか、判断がつかないという声をよく聞きます。市場全体が拡大することと、自社の事業に変化が及ぶことは、別の問題です。この記事では、「バイオエコノミーは自社に関係があるのか」を、事業のどこで変化が起きうるかという5つの視点から確認するフレームを整理します。

すべての企業が参入すべき話ではない

バイオエコノミー関連の報道は、市場規模の大きさや投資額の伸びを強調する傾向があります。しかし、市場全体が成長していることと、個々の企業がその成長から直接影響を受けることは、同じではありません。

バイオエコノミーとは何かで整理した通り、この分野の対象は食・農業・林業・水産業からバイオものづくり、バイオベース素材、バイオ燃料まで幅広く含まれます。この幅広さのために、「バイオエコノミーは重要だ」という総論と、「だから自社も何かすべきだ」という各論が、十分な検証なしに結びつけられることがあります。関係が薄い企業も当然存在します。まず必要なのは、自社の事業のどこで、どのような変化が起きうるかを具体的に確認することです。

事業のどこで変化が起きるか——5つの視点

バイオエコノミーに関連する変化は、事業のさまざまな段階で起きえます。実際に起きている変化を整理すると、次の5つの視点に集約できます。

1. 原料調達

調達する原料そのものが変わる、または調達条件が変わる

2. 製造プロセス

既存の化学合成・製造工程が生物的な工程に置き換わる、または競合する

3. 製品・顧客要求

自社製品が代替されるリスク、または顧客からバイオ由来を求められる変化

4. 規制・市場アクセス

特定市場で事業を続けるための条件そのものが変わる

5. コスト・資本

原料価格・政策支援・資金調達環境の前提が変わる

1. 原料調達の変化:EU森林破壊防止規則(EUDR)は、牛肉・大豆・パーム油・木材・コーヒー・カカオ・ゴムとその加工品について、森林破壊地由来でないことの証明を義務付けます。これらを調達に含む企業は、原料そのものではなく調達の「証明可能性」という条件が変わります(EUDRと日本企業の調達)。

2. 製造プロセスの変化:精密発酵のように、微生物を使った生産方法が、既存の化学合成や動物由来の生産方法と競合・代替する場面が増えています。ただし、実証段階の技術が商業規模で同じように機能するとは限りません(発酵槽が動いても、ボトルネックは別の場所へ移る)。

3. 製品・顧客要求の変化:バイオプラスチックのように、既存の石油由来素材の代替として提案される製品が増える一方、既存製品を作る企業にとっては代替リスクになります。逆に、認証制度(バイオマスマーク等)への対応を顧客から求められる変化も起きています(バイオ素材の認証マークは何を証明しているのか)。

4. 規制・市場アクセスの変化:EUのReFuelEU航空規則は、2025年1月から域内空港での航空燃料に持続可能な航空燃料(SAF)を最低2%混合することを燃料供給事業者に義務付けています。SAFは化石燃料の2〜4倍のコストとされ、義務を満たせない事業者には罰則が科されます。SAF生産企業にとっては需要が保証される機会である一方、航空会社・燃料供給事業者にとってはコスト増という負担です(SAFの供給不足はなぜ起きるのか)。

5. コスト・資本の変化:原料価格の変動、政策支援の縮小、資金調達環境の悪化により、事業計画の前提が崩れることがあります(撤退・失敗から何が読めるか)。

同じ変化が、機会にもリスクにもなる

ここで重要なのは、これらの変化を「機会」と「リスク」に単純に分けられないという点です。ReFuelEU航空規則の例が示す通り、同じ制度変化が、ある企業にとっては需要保証という機会になり、別の企業にとってはコスト増という負担になります。

同様に、精密発酵による製造プロセスの転換は、新技術を持つ企業には事業機会ですが、既存の生産設備に投資してきた企業には、その設備が陳腐化するリスク(座礁資産化)になりえます。バイオプラスチックへの代替も、素材メーカーには新市場ですが、既存の石油由来素材メーカーには市場浸食のリスクです。

自社にとってどちらの側に立つかは、業種・調達構造・既存の設備投資によって異なります。「バイオエコノミーは成長市場だから機会だ」という一方向の理解では、自社が実際にはリスク側に立っている可能性を見落とします。

自社で確認するための簡潔なフレーム

自社がバイオエコノミーの影響をどの程度受けるかを確認するには、次の5つの問いから始めることができます。

  1. 原料は変わるか:調達する原材料、または調達条件(証明・トレーサビリティ等)に変化はあるか
  2. 製造プロセスは変わるか:自社または競合の製造方法が、生物的なプロセスに置き換わる、または競合する可能性はあるか
  3. 顧客要求・市場アクセス条件は変わるか:取引先・進出先市場から、バイオ由来・環境負荷に関する新しい要求が示されているか
  4. 既存製品が代替されるリスクはあるか:自社の主力製品が、バイオ由来の代替品によって置き換えられる可能性はあるか
  5. コスト構造・資金調達環境の前提は変わるか:原料価格・政策支援・資金調達環境について、現在の前提が今後も続くと言えるか

これらの問いに対する答えが「特に変化はない」であれば、現時点で緊急に対応すべき事項は少ないと判断できます。一方、複数の問いで変化の兆候がある場合は、どの視点が自社に最も強く関係するかを個別に深掘りする価値があります。

まとめ

「バイオエコノミーは自社に何を意味するのか」という問いに、業種を問わない一般的な答えはありません。原料調達・製造プロセス・製品と顧客要求・規制と市場アクセス・コストと資本という5つの視点で自社の事業を確認し、どこで変化が起きているか、その変化が自社にとって機会かリスクかを個別に判断することが出発点になります。市場規模の大きさや将来性の高さだけを理由に、自社の関与を決めるべきではありません。

参照資料

  • 内閣府 統合イノベーション戦略推進会議.「バイオエコノミー戦略」(令和6年6月3日決定). cao.go.jp
  • EUR-Lex.「Regulation (EU) 2023/1115 (EU Deforestation Regulation)」. eur-lex.europa.eu
  • European Union Aviation Safety Agency (EASA).「Sustainable Aviation Fuels」. easa.europa.eu
  • Air bp.「Are you up to speed on the ReFuelEU SAF mandate?」. bp.com

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