農業残渣は土に還すべきか、飼料・エネルギーに回すべきか——競合利用の経済性
稲わら・もみ殻のような農業残渣は、土壌還元・飼料・バイオエネルギーという複数の用途で奪い合われています。理論賦存量と経済的回収可能量の違い、季節性、競合利用という観点から、どの用途が成立しやすいかを整理します。
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稲わら・もみ殻のような農業残渣は「大量に発生している未利用資源」として紹介されがちですが、実際には土壌還元・飼料・バイオエネルギーという複数の用途がその資源を奪い合っています。未利用資源がなぜ活用されていないのかで見た「量があることと使えることは別問題」という構造に加えて、農業残渣には「どの用途に回すべきか」という競合利用の問題があります。理論上の発生量と経済的に回収できる量の違いから整理します。
競合利用という、もう一つの問題
未利用資源がなぜ活用されていないのかで見た通り、林地残材・規格外野菜が使われない主因は収集・運搬コストにあります。しかし農業残渣(稲わら・もみ殻等)には、これに加えてもう一つの問題があります。実際に収集できた分について、土壌還元・飼料・バイオエネルギーという複数の用途がその資源を奪い合うという問題です。「発生している」ことと「使える」ことの距離を越えた残渣であっても、次にどの用途へ回すべきかという選択が残ります。
季節性と水分・保存性という制約
農業残渣は収穫時期に集中して発生するため、一年を通じて平準化された供給が難しいという季節性の制約を抱えています。収穫直後は水分を多く含み、乾燥・保管の工程を経なければ長期の保存や輸送に耐えません。この制約は、収集後にどの用途へ回すかという選択にも影響します。乾燥・保存に時間をかけられない場合、その場ですき込める土壌還元が現実的な選択肢になりやすい一方、飼料・エネルギー用途は乾燥・保管の工程を経てから初めて選択肢に入ります。
土壌還元という選択肢
もみ殻を炭化した「もみ殻くん炭」を農地に施用すると、土壌の透水性・保水性・通気性の改善に効果があるとされています。残渣をそのまま農地にすき込む、あるいは炭化して土壌改良材として使うことは、追加の輸送・加工コストが少なく済む選択肢です。ただし、土壌還元は残渣を「収入源」にするのではなく、次の作付けのための土壌管理コストを抑える手段という性格が強く、他用途への転用機会は失われます。
飼料という選択肢
稲わらは、繊維質が豊富なため肉牛の飼料として利用できます。栄養価は高くありませんが、尿素を添加することで栄養価・嗜好性・保存性を向上させる技術もあります。飼料として利用するには、飼料化に適用される法規制と同様、品質・安全性の基準を満たす必要があり、近隣に畜産農家という買い手が存在するかどうかが、この選択肢の成立を左右します。
バイオエネルギーという選択肢
食料・飼料と競合しないセルロース系原料を用いたバイオ燃料の研究が進められており、稲わらのような農業残渣はその候補の一つです。ただし、バイオ燃料とe-fuelの違いで見た通り、原料の収集・輸送コストという制約は農業残渣由来のバイオ燃料にも同様にかかります。理論上の発生量がどれだけ大きくても、収集・輸送・前処理のコストが見合う範囲でしか実際の生産量には結びつきません。
まとめ
農業残渣は、土壌還元・飼料・バイオエネルギーという複数の用途で競合しており、どれか一つが常に正解というわけではありません。理論賦存量の大きさではなく、季節性・水分・保存性という制約の中で、地域ごとにどの用途に買い手・利用先が存在するかによって、実際に成立する用途が決まります。
参照資料
- 農林水産省.「飼料をめぐる情勢」(令和6年5月). maff.go.jp
- 農林水産省 農産局農業環境対策課.「バイオ炭の農地施用をめぐる事情」(令和7年4月). maff.go.jp
- 山形大学農学部.「稲ワラ」. tr.yamagata-u.ac.jp